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第307話

こんな答えが返ってくるとは思っていなかったのだろう。

スタッフは弥生を見て、また瑛介を見た後、慎重に彼に尋ねた。「では、こちらの方はどう思いますか?」

先ほど尋ねた時、明らかに男の目の中に期待が見えた。

しかし、今度彼は何の反応もしかく、声も冷たくして言った。

「彼女の言う通りに」

終わりだ。もう止められないようだ。

スタッフはこれ以上何も言わず、二人の離婚手続を無言で行なった。

バタン!

押印し、二枚の離婚届を渡した。

弥生と瑛介は離婚届をじっと見つめて呆然としながら、それぞれが自分の一枚を持っていった。

そして、区役所を出た。

区役所を出ると、弥生は冬の冷たい風が顔を打つのを感じ、長い髪は風に吹かれて、まるでナイフが顔に当たるように痛い。

離婚届を手で握りしめながら、弥生は片手を上げて、落ち着いた声で言った。

「いろいろとありがとう」

瑛介は彼女と握手もしなかったし、彼女を一度も見ていなかった。ただこの一言を残して去っていった。

「君は自由だ」

弥生だけがその場に立ち尽くされた。

区役所の入り口は風が特に騒がしくなった。

弥生の柔らかい髪は寒風で乱れ、時には顔にも打ち付けて、湿気と冷たさが伴っている。

いつの間にか、弥生は涙を流し始めていた。

涙は水道の蛇口のように流れて止まらなかった。

もう十分覚悟していて、気にしないと思っていたが、本当にここまでやってくると、心はまるで穴を開けられたようだった。

その感覚に彼女は少し息苦しくなった。

区役所の人々は行き来していて、結婚に喜んでいる人もいれば、悲しそうに離婚に来る人もいる。弥生のように涙を流す人も珍しくない。

離婚の際、恋人同士が互いに恨んでいることは少なくないが、離婚したとしても、過去の美しい思い出を思い出すと、いつも涙がこぼれる。

だから彼女のように区役所の入り口で泣いているのは不思議ではない。

ただ、彼女はあまりにも綺麗で、白いコートを着て、長い髪を背中に垂らして、肌は雪のように白く、泣いていると目や頬が赤くなり、全体的に可愛くて壊れやすいように見えた。

そのため、通り過ぎる人々は思わず彼女に何度も目を向けた。

由奈が電話をかけてくると、弥生は泣きじゃくっていた。

「うん……離、離婚した。ちょうど今」

由奈はまだ仕事中だったが、弥生がこんなに泣い
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